そのとき、
「いままで私は、独り山林や樹下に座し、あるいは
それを聞いて釈尊は、舎利弗に語った。
「舎利弗よ、お前は未来世において、人が計ることも考えることもできない限りなく遠い未来において、幾千万億の諸仏に仕え、
菩薩のなすべきことを終えて、
そこにいたすべてのものたちは、舎利弗が阿耨多羅三藐三菩提の記を受けるのを見て歓喜し、上衣を脱いで釈尊に捧げた。
帝釈天や梵天王は天子の衣や天の花の
「世尊は、バーラーナシー国の
そのとき、舎利弗は釈尊に言った。
「ここにいる千二百人の阿羅漢たちは世尊の教えの通り修行を重ね、生・老・病・死を離れて、悟りを得たと思っております。
しかし今、いまだかって聞いたことのない世尊の法を聴いて、動揺しております。どうか皆の疑惑をはらしてください」
釈尊は、舎利弗に語った。
「それでは舎利弗よ、ひとつたとえ話をしよう。智のある人は、たとえ話で意味を悟るからだ。ある国のある処に、無量の資産を
持つ大長者がいたとしよう。長者の家は広く大きく、使用人は五百人を数え、子どもも二十人いたとしよう。なかには質の悪い動物や
夜叉も沢山巣くっていて、ときに殺し合いをしていた。家は古かったので、柱は朽ち、土壁は崩れ、軒も傾いていた。
そして、門は一箇所しかなかったと思いなさい。あるときこの家が火事になった。火は四方から一気に家中を包んだ。中には子供たちが
いる。火事に気付かず、災禍が迫っているのに、それすら知らずに遊んでいるとしよう。長者はどのようにして
子供たちを外に連れ出したらいいのか、とっさにあれこれ思案した。自分にはまだ十分の体力と腕力があり、自分の力をもってすれば
子供たちを全員を抱きかかえて外に飛び出すこともできる、と考えた。さらに別の考えが浮かんだ、門は一つしかなくしかも狭い、このままでは
逃げ場もなく子供たちは焼け死んでしまうだろう、この恐怖の思いを子供たちに伝えて逃げ出させよう。長者は大声をあげて家の中の
子供たちに呼びかけ、危険が迫っていると叫んだが、子供たちは本当にせず、その意味も理解できず、誰も出てくるものはいない。
そこで長者は一計を案じた、
そうだ方便を使って子供たちを外に連れ出すことができるかもしれない。というのも長者は、子供たちの性格や好みをよく知っていた
からである。子供たちは新奇なものが大好きだったのである。そこで長者は言った、『珍しいものがあるぞ、門の外に出てきなさい、
舎利弗よ、このとき長者はこのように思った。『私の資産に限りはないから、子供たちに劣った小さな車を与えるべきではない。 子供たちは皆可愛いい我が子である。差別せず等しく七宝で飾られた最高の車をあげよう』
こうして子供たちは、等しく立派な牛車が与えられた。車高がたかく、様々な宝石で飾られ、欄干を周囲に廻らし、四面に鈴が ついている。天蓋があって、珍しい宝玉で飾りつけられている。金糸の綱には沢山の花房がついており、 敷物は上質の布を重ねて敷かれ、赤い枕が添えられている。 大勢の侍者がつき、白い大きな牛が引いている。牛の肌は滑らかで、姿は美しく、筋力があり、堂々として歩き、風のように速く走る。 それは見事な牛車であった。こうして子供たちははからずも、望んだ以上の贈り物をもらったのである。 舎利弗よ、お前はどう思うか。この長者は子供たちに嘘をついたことになるだろうか」
舎利弗は、釈尊に答えた。
「いいえ、そうではありません。長者は子供たちの命を救ったのです。初めから方便をもって子供たちを火宅から救い出そう、
と考えてやったことですから、嘘をついたことにはならないと思います。そして子供たちは見事な牛車を賜ったのですから」
釈尊は、舎利弗に語った。
「そうだ、お前の言う通りだ、舎利弗よ。そして如来も全くこの通りなのだ。朽ちた家は
三界である。長者には十分な体力と
腕力とがあったが、その力を使わなかったように、如来もまた神力や智力を使わず、方便をもって衆生を救うのである。
如来がその知見を直接に使えば、衆生は三界の火宅のなかにいるために、それを理解することができないであろう。
それゆえに如来は方便をもって、
釈尊はこのように語ると、重ねてこの意味を伝えようとして、詩句をもって唱えた。その詩句のなかで釈尊は激しい調子で
語るのである。
「舎利弗よ、この教えを人と非人とすべてのものたちに宣べ伝えよ。最後の時にあたって説いたこの法こそが、最高の
教えである。如来は衆生を安んじ、世間を利するために現われたのである。お前の説くところを信じるものは、かって
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